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「――お母様。お加減はいかがですか」
マリアが母、エリントロス伯爵家の当主、アンネの寝室に入ると、二人の弟妹たちが顔を上げて、走りよる。
「お姉様!」
「姉上っ!」
「二人とも、食事中に席を立つなんてお行儀が悪いわよ」
一緒になって食事をしている弟妹に声をかける。
今年で十二歳を迎えた妹のセリノ、十歳の弟、カルロスだ。
「それから、みんなに無理を言ってお母様と食べるなんて。もっとエリントロス家の人間として相応しい行動を取りなさい」
二人は不服そうに唇を尖らせた。
「でも……」
「言い訳は聞かないわ。二人とももう幼児ではないのよ」
「マリア、良いのよ。私も賑やかな方が良いもの」
アンネが優しく言うと、「ね、お母様!」「母上!」と二人は得意げな顔をする。
マリアは二人の頭を軽くはたく。
「お母様も大変なのだから甘えないのっ」
二人は「お姉様がぶったぁ」「姉上が怖いよぉ!」と母親に縋り付く。
(まったく)
アンネもアンネで「よしよし」と頭を撫でる。
「二人とも。少し部屋を出ていて。お母様と大切な話があるの」
弟妹たちは少し渋い顔をしたが、「大丈夫。すぐに終わるから」というアンネの言葉に、「はあい」と部屋を出て行く。
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