第一章 都からの使者(2)

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 マリアは息を吐く。 「お母様、あまり甘やかさないで下さい。図に乗るとみんなが苦労しますから」 「そうね、気をつけないと」  アンネは言う。  しかしそれは常套句(じょうとうく)でもある。  今日はいつもより顔色が良かった。  寒いよりも温かい方が良いが、暑いとそれはそれで体調を崩す原因にもなる。 「それで話というのは? 農園の方で何かあったの?」 「いいえ。作物の生育に問題はありませんでした。でも王都から客人が参ったらしいのです。詳しくは分からなかったのですけれど……」 「そう……」  アンネは呟き、考える。  身体こそ病弱ながら、心は誰よりも強い。  マリアの父であり、夫でもあるメンデスを失いながらも懸命に当主としての責務を果たそうとしている。  こんな女性になりたいと、マリアは言葉にこそ出してはいないが、ずっと心の内では目標にしていた。  アンネは寝台のそばにある鈴を鳴らす。  すぐに執事がとんでくる。 「村の人々に軍基地へ近づかぬように通達を出しなさい。それから見慣れない兵士には近づかぬよう、何か問題があれば至急、私に伝えるように」 「かしこまりました」
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