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青々とした草原地帯の一角にある丘陵に古色蒼然たる古城がそびえたっている。
朗らかな春の日射しの中でそれはどこか誇らしげにたつ――はずだった。
しかし実際は今にも消えてしまいそうな灯火のように頼りなげ。
というのも、いつもは地平線まで見渡せるであろうその草原は数万という大勢の兵士により埋め尽くされ、十重二十重に包囲され、蟻の這い出る隙も無い。
城の尖塔で翻る、勇ましく前脚を掲げた獅子の旗も儚げ。
包囲する軍勢に目を転じれば整然と居並んだ将兵の中、炎を吐き出す双頭の竜の染め抜かれた紅い軍旗の翻る一角がある。
軍旗の下にいる兵士たちのまとう曇りの無い象牙色の特異な鎧は際だっていた。
そんな中で騎乗する人物の姿の異相はさらに目を惹く。
美しい金髪に鮮血のような双眸を持った長身痩躯の偉丈夫――。
象牙色の鎧をまとい、大木すら一撫でで断ち切れんばかりの剣を腰に携えていた。
ジクムント・フォン・ハイメイン。
大陸の中原に覇を唱える、ハイメイン王国の若き王であった。
不吉さを漂わせる紅い眼(まなこ)の見据える先には、件の古城。
その表情は敵への憎悪で充ち満ちている。
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