第一章 都からの使者(3)

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 マリアの無言に、ヨハンは苦い顔をする。 「陛下に言えば、マリア様を王都へお連れすることを決して許されないでしょう。こうしてこちらに参るのも別件を終えた帰りという(てい)をとったほどですから。 しかしそれはマリア様を不要だと思われたからではなく、今でも陛下にとってマリア様が大切だからなのです。未だ反対派は駆逐できておりませんし……。 しかし陛下を()やすことが出来るのはマリア様をおいて他にはいらっしゃないのも事実でございます」 「それは、買いかぶりというものです」  マリアは目を伏せた。 「――それとも、すでに縁談の話が進んでおられるのですか」  マリアははっとする。 「どうしてそれを……」 「申し訳ございません。マリア様とお会いするのは久しぶりということもありまして、その……幾つか調べさせて頂いたのです」  言葉こそ控えめだが、全て知られていると思って間違いないだろう。  しかしマリアはそれに対する怒りは無かった。  ヨハンとマリアは長らく会わなかった。  あの頃とどれほど変わっているか――それを踏まえて、会うかどうかを決めたのだろう。
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