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「縁談の話は関係ありません」
「では……もう、陛下のことは」
「違います。そうではありません。でも、陛下が望まれていないのに……」
「それは、そうですが」
「確かにヨハン様は陛下には私が必要であると思って下さっているのかもしれません。でも陛下がそうであるとは限りません。私のことを邪険に思われる可能性も……」
目を閉じると、当時、第五王子時代だったジクムントの傍に仕えていたことのことがまざまざと思い出される。
ジクムントが心を許せる人間が少しでも増えればと、メンデスがジクムントと一歳下のマリアを仕えさせたのだった。
あの頃は何もかも楽しかった。
ジクムントは決して人に心の内や感情を見せない子であった。
それは一見華やかに見えながら多くの大人の思惑が渦巻く王宮における身を守る術だった。
でもマリアには彼の考えていることが分かった。その無表情の奥にある感情が分かった。
「少し考えさせて頂けますか」
「急なことで恐縮ではありますが明後日までにお返事を戴きたい。その日に王都へ発ちますので……」
「分かりました」
マリアはヨハンを見送る為に立ち上がった。
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