第一章 都からの使者(4)

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 ハイメイン王国の王都ヴァラクイナは大運河に面した交通の要衝(ようしょう)である。  街中にはいくつも川を引き込み、街の間を()うように流れる。  その為、幾つもの橋がかかり、まるで迷路のように入り組んだ構造をしていた。  これは本来王都への侵入者を惑わせ、敵兵を散らばらせる働きを意図した構造だったが、長い平和の時の中で、この街の名物になっていた。  橋は古くは創建の時から残っている木造のものから、著名な石大工(いしだいく)によって装飾された豪奢(ごうしゃ)な石橋、王侯貴族や外交使節のみが通行を許された宝石をちりばめた橋……など多岐にわたっていた。  その王都の中心地、一方の跳ね橋のみが唯一の通路として用いられているのが、国王の棲まうトーレス宮である。  幾つもの尖塔(せんとう)がそびえ立ち、外見からは内部は一切、(うかが)い知れない。  その宮殿の最深部に、ジクムント・フォン・ハイメインはいた。  国民の目にする姿は鎧に身を包んだ姿だったが、今は平服を着用し、執務に励んでいた。  ジクムントは即位以来、政務に(はげ)み続けている。  自分が足を止めれば、自分の寄って発つ足場が崩壊するのだから仕方がない。  ジクムントが即位してすぐに行ったのは名のある貴族たちを要職より罷免(ひめん)し、爵位にかかわらず実力のある者を重用することだった。
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