第一章 都からの使者(1)

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「うーん! 今日も良い天気っ!」  マリア・デ・エリントロスは両腕を空一杯に突き上げて、背伸びをする。  (ほが)らかな日射しが温かく、快い。  春先は冷える日も少なくないが、ここ数日はまるで初夏のようで軽く汗ばむこともあるほどだ。  日射しを受けたマリアの緑柱石のような瞳が澄んだ光を帯びた。  短袖の上衣に乗馬袴、(あめ)色のロングヘアを高く結い上げたマリアは風に乗って鼻をくすぐる、新芽の香りを感じながら馬に揺られて農園の田舎道を進んでいた。  見渡す限り、木々が広がっていた。  今はまだ実りは小さいが、初夏を迎えるとアルの実という真っ赤な果実をつける果樹園だ。  柑橘系のそれは王侯貴族は元より庶民にまで愛される、ハイメイン王国の名物だ。  ハイメイン王国の南部にある、ここトルシア州は一年を通して気候が温暖で、アルの実の一大産地として名高い。  そしてマリアの家、エリントロス家はトルシア州を収め、伯爵の位を王家より(いただ)いていた。
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