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店の奥には、細長い廊下を挟んでだだっ広い座敷が横たわっていた。中に足を踏み入れた途端、い草の香りとひんやりした空気がしんと体を包み込む。
思わず立ち竦んでしまった加奈子に、すかさず部屋の奥からぼうっとしてんと手伝えととげとげしい声が飛んだ。
彼女は指示されるがままに畳の上に敷いた大きな白い布の上に座布団並べて朱塗りの膳を置き、その上に杯を二つ並べた。そしてその用意した座布団の上に、手ぬぐいに包んだままの鏡を伏せて置く。
店主はその全てを指示しながら、何故か部屋の片隅にビデオカメラを設置していた。
「撮影するんですか? 何でですか?」
「何でて、撮影するために決まってるやろ」
「・・・・・・何で撮影しはるんですか?」
「そら、視るためや」
「視る?」
店主はわざとらしく大きなため息をついた。
「あんたの役目はここまでや。先店に戻っててもらおか」
「えっ、私にも何か手伝えませんか?」
「言うたやろ、あんたが出来ることはここまでや」
下がっとき、と頭ごなしに命令されて、いつしかのように加奈子の中に負けん気の炎が燃え上がった。しかし彼がそれっきりこちらをちらりとも見ようとしないので、渋々座敷を出て店へと戻った。
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