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襖を閉める直前、何かが蠢いたような気がしたのだが、加奈子は努めてそれに気付かなかった振りをした。することもなく狭い店内をぐるぐると歩き回っていると、突然ぎゃっと何かが叫ぶ声がして身の毛がよだった。
男でも女でもない、恐ろしい声だった。
思わずその場で固まって耳を澄ませていると、突然襖が開いて加奈子は思わずびくっと体を震わせた。
そこには先ほどと変わらず涼しい顔をした店主が立っていて、片手に袋のようにぶら下げている先ほどの手ぬぐいからちゃりりと金属がぶつかる音が聞こえた。
「あれはな、本来は祓い屋が持つ魔除けの鏡や」
店主は背後の襖を閉め、店内で立ち尽くす加奈子の方へ近づいた。
「鏡ゆうんは魑魅魍魎のほんまの姿を暴くもんやけど、同時に穢れやすいもんでもある。鏡の中に入り込んだもんが力の弱い妖をおびき寄せてな、鏡の中に引きずり込んで喰うんや」
妖が妖を喰らうというのは聞いたことがあるが、いざこうして言葉にされると何か窮するものがあり、加奈子はごくりをつばを飲み込んだ。
「その、中に入り込んだもんゆうんは」
「狒々やな。女の狒々や、ほとんど人に近かったなあ」
卓上に広げられた風呂敷の中には、粉々になった鏡の破片が入っていた。
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