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「何があったんですか? もしかして最近起こってた悪いことは、あれが原因ですか」
「そうや」
店主はあっさりと肯定し、続けて言った。
「あのままやったら近いうち、まずはあんたから鏡の中に引きずり込まれて喰われてたやろな」
思わずぞっと背筋が凍りついた。言葉が出ない加奈子を他所に、店主は鏡の破片を風呂敷で包み直しながら言った。
「ああいうもんは怒りとか憎いゆう気持ちを好むんや。あんたもこれを機に人やものにあんまり強い感情を向けんことや」
加奈子はぎくりとし、それからまたぞぞぞと鳥肌が立った。ただただ立ち尽くす彼女を横目に、店主はふと顔を背けて口元を右手で覆う。何かを堪えるようにしばらく息を止め、やがてふっと吐き出した。
「――ほな、これで用も済んだやろ。帰ってんか、もうここには来るんやないで」
彼はそそくさと店の奥のやたらと豪奢な椅子に戻り、背もたれに身体を預けて目を閉じている。
会話をする気がないことを悟って、加奈子は気持ちばかりの金封を床から腰の辺りまでの高さの陶器の塔の上に載せた。
もしも彼がインチキだったならこの金封の中身は約二週間分の食費に消える予定だったのだが、あのような映像を見せられてしまえば信じざるを得なかった。
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