鏡のこと

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「あの子もこないだ胃潰瘍やったばっかりやし、貴志さんもコンゴでなんや病気ならはったみたいやし。嫌ぁなことが続くなあ」  貴志というのは妹の結婚相手で、現在は大学で助教授をしながら民俗学の研究を続けている。少しぼうっとした性格だが、元来おっとりしている妹とは馬が合うらしい。  本当にそんな頼りない男でいいのかと、家族内でただ一人加奈子だけが彼との結婚に渋い顔していた頃が懐かしかった。 「コンゴて、貴志さんそんなとこの民俗学が専門やったっけ?」 「そうらしいなあ。いろいろ面白いらしいけど」  加奈子はしばらく想像もつかないコンゴの生活に思いを馳せてから、ついこの間志帆が言っていたことを思い出した。 「そういえば貴志さんが病気にならはったっていうんで、あっちのお母さんが軽く鬱みたいになってはるみたいやで」 「いや、そうなん?」 「あっちお母さん一人やから、いろいろ思わはるんちゃうやろか」 「せやな、そうやろなあ、かわいそうに」  彼女は渋い顔で何度も頷いた。 「やっぱりお祓いでも行った方がいいんやろか」 「お祓いて。どこ行くん」 「分からへんけど、どっか行っといた方がいいかもしれへんなあ」  どっかええとこあったら探しといて、と頼まれた加奈子は、適当にスマホで厄除けの神社を検索しながら病院を出た。
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