鏡のこと

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 バス停に向かって鴨川の河川敷を歩いていると、橋の下に簡素な机を出して誰かが座っているのが見えた。近寄ってみるとそれは黒い布を全身に巻きつけている老婆で、足元には占と書かれた札が立っている。  加奈子はその不思議なオーラになぜか吸い寄せられ、気付けば老婆に近頃立て続けに起こる身内の不運について語っていた。  老婆は黙って彼女の言葉を聞いた後、重々しく口を開いた。 「私には貴方の後ろに影が見えます。何か悪いものに取り憑かれてますね。早めに手を打たないと死人が出ます」  加奈子はそこで少しだけ目が覚めた。占い師だか霊媒師だか知らないが、そりゃあ客がこの手の相談をしてきたら八割方このように答えるに決まっている。  急激に気持ちが冷めていく彼女をよそに、老婆はチラシの裏に鉛筆で何かを書きつけた。 「ここに行って店主に相談してみてください。手を貸してくれると思います」  そこには恐ろしく汚い字でおそらくは最寄りの駅の名前と住所が書かれていた。 「大阪ですか」  思わず呟いた加奈子に、老婆は何を当たり前のことをと言わんばかりに頷いた。加奈子は今までの人生で本当に数えられるほどしか京都の外に出たことがない。そのせいなのか大阪という土地にあまりいい印象はなく、失礼だがこの怪しい老婆に紹介された大阪にある店というだけでほとんど信用が無くなってしまった。しかし相手は厚意で言ってくれているのだということも分かるので、礼を言ってからそそくさと家に帰った。
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