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腰が抜けてホームに座り込みながら、加奈子は震える声で誰かが背中を押したのだと訴えた。すると間一髪で彼女の腕を掴んで助けてくれた恩人は不思議そうに首を傾げて、そんな人はいなかったと言った。
しかしその後も加奈子があまりにも凄まじい形相で誰かに背中を押されたと繰り返すので、何事かと駆けつけた駅員が通報し大事になったところで警察官と一緒に監視カメラ映像を見た。
そこにはたしかに、彼女が一人でふらつく姿が映っていた。
思わず黙り込んでいると、警察官が突然もしかして最近あなたの身内で事故に遭った人がいますかと言った。
「ええ、母です。車との接触事故で」
「やっぱり、名字が一緒やったから。お母さんの時も僕が担当してたんですよ」
「そうやったんですか。その節はお世話になりました」
「いえいえ。実はお母さんも事故の時後ろから誰かに背中を押された言うてはって、今日みたいに監視カメラを見たんですよ。まあ誰も映ってへんかったんですけど」
その話は初耳だった。ぽかんとしている加奈子に、警察官は誰かに恨まれたりといった心当たりはありますかと言った。いいえと答えながらも、彼女の頭の中は先日老婆に言われた早く手を打たねば死人が出るという予言めいた言葉でいっぱいになっていた。
本当に誰かが死んだらどうしよう。
加奈子はその次の日、老婆にもらった紙を握りしめて大阪に向かった。
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