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阪急電車と大阪市営地下鉄を駆使してたどり着いそこは、駅前以外はどこか田舎めいている土地だった。人の疎らな商店街を抜け、神社の横を通って住宅街を歩く。
人に尋ねながらようやくそれらしき建物を見つけた時には、加奈子は安堵すると同時にまるで数時間彷徨い続けたようにどっと疲れていた。
「すいません」
実に混迷を極めている店内に、加奈子の頼りない声が響いた。狭い店内の壁を覆い尽くすように並ぶ背の高い棚には所狭しと陶器や瀬戸物、その他ごちゃごちゃしたものが詰め込まれている。床からさながら塔のようにそびえ立つ家具は絶妙なバランス感覚を発揮し、もはやオブジェと化していた。
「どちらさんですか」
まるで異世界のような店内にいつの間にか現れた店主と思しき男は、店の奥のやけに豪奢な肘掛け椅子に腰掛けて何故か優雅に紅茶を飲んでいた。
「い、いはったんですね」
「最初からいてましたよ」
男は加奈子よりも若く見えた。濃紺の着流しの上から椿の花が散らされた派手な打掛をゆるりと羽織っている。いかにも和風の装いだというのに、その手の中にある薔薇の模様のソーサー付きのカップだけがそぐわなかった。
艶やかな黒髪の下の切れ長な目がちらりと彼女を見据える。思わずどきっとしてしまうほど整った顔をしているその男はえらく気怠げにそのカップを口に運んでいて、加奈子は雰囲気に飲まれる前にと口火を切った。
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