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「あんた、最近何か拾ったり買ったりしてへんか」
「えっ? いや・・・・・・特に思い当たりませんけど」
「すぐ否定すんのは答えによっぽど自信ある時か考えが浅い時や。あんたは後者と違うか?」
かちんときた加奈子は、むきになって口を開いた。
「最近買ったものといえばノートです」
「ノートね。新品のやつ?」
「はい、仕事に要ったのでコンビニで」
「はー、他には」
「あとは、あとは最近新しくシャツ買いました」
「あー、ちゃうちゃう、ちゃうねん、そういうこととちゃうねん。それも新しいもんやろ? 他や他」
買ったものを言えというからわざわざ記憶を掘り返して答えているというのに、なんという言い様か。まるで小さい子どもに言い聞かせるような口調で先を促され、加奈子の胸中にははっきりとした苛立ちと共に、絶対に言い負けてなるものかという頓珍漢な炎がめらめらと燃え上がった。
「そうやね、あとは、鏡ですかねぇ」
「鏡? 鏡ねえ、それどこで手に入れたんや」
「友達からもらいました。前から鏡が欲しいて言うてたから」
「はー、お友達から」
男はそこで言葉を切ると、懐から一枚の白い手拭いを取り出した。藍色の絞染めが施されたそれを無造作に差し出され、加奈子は首を傾げながら受け取った。
「その鏡やけどな、今度来る時これに包んで持ってき」
「鏡をですか?」
「顔映る方、下にして包むんやで。ほな、今日はこれで終いや。さいなら」
来週同じ時刻に来いと言うので、彼女は不完全燃焼のまますごすごと家に帰った。
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