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(彼は、彼はさっきから何を言っている?)
大槻が見せる辛くて苦い表情が、心の叫びを証明していた。自分の中で考えてもいなかったような答えが過り始める。
「お前が、ユウナとわかった時、恐ろしいぐらい身震いした。だが同時にやっとわかったんだ。道理でここまで心惹かれ、求めてやまないのかと。昔から俺の心を捉えている本当の意味が、やっと――……」
大槻の声色が熱を孕んだものへ変化していくのを感じた。
「お、大槻、も、もう、これ以上はっ……」
(駄目だ、これ以上は、聞いていられない……)
首を左右に振り言わないでと訴える。それでも大槻は、ゆっくり歩み寄ると距離を縮めてきたのだ。
「いや、最後に言わせてくれ。結人――」
自分の足は、まるで凍り固まったかのように動けないでいた。近付いた大槻を自然と見上げる。
至近距離で重なる視線の中。彼は静かに告げた。
「結人、愛している。出会った時から、ずっと――……」
「……っ!」
その告白に細胞の全てが喜び震え、どこか信じられずにいた。それはユウナに向けた言葉ではないのかと。
否、確かに大槻は、俺を結人を愛していると言ったのだ。
「お前を抱く理由が欲しかったんだ。ユウナの姿に、俺はずっと結人を重ね見ていた」
高鳴る気持ちを抑えるのに精一杯で、それを聞いても何も反応出来ずにいた。
「本当に最低な事をしたと悔いている。お前に好きな男がいるとわかっておきながら、俺はそれに嫉妬し、騙されたと言い訳し、自分の欲を満たしていたんだ。謝っても謝りきれない……本当に、すまない」
「――えっ?」
素っ頓狂な声が口から漏れる。「好きな男」と聞き、やっと少し現実に引き戻された気がした。
「…結人が俺の事を嫌いなのも充分わかっている。だから、昔も何も言わず姿を消したのだろう?」
「――え?
「再会した時の避ける様な態度も、つまらない様子もその所為だろう? それをわかっていて、俺は結人の心を踏み躙るような事をしてしまった……最低な男だ」
大槻が自らを責める。どうやら彼は少しどころか、かなり勘違いをしているようだ。
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