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ただ吃驚した。なぜなら、意を決し今から会いに行こうと思った人物が開いた扉の先に立っていたからだ。
「…………」
驚きで声を出せないまま大槻を凝視していると、彼は視線を伏せながら彼が問うてきた。
「……もう、歩いても大丈夫なのか?」
「え?あ、うん。少しぐらいなら、大丈夫」
「そうか、安心した」
大槻の強張っていた表情が一変し、頬を緩ませ笑みを零していた。そして再び顔を引き締めると尋ねてくる。
「……少しいいか?」
機嫌を伺うような口調は、いつもと雰囲気が違い、緊張感が生まれた。
「あ、うん。どうぞ、入って……」
大槻を招き入れたのは良かったが、直ぐに沈黙が流れた。それが更に二人きりなのだと余計に意識付けられてしまう。そんな沈黙から引き出されるのは重く気まずい空気だった。
その所為か、余計に緊張感が増してしまい、何をどう話し掛けていいのかわからなくなってしまった。
大槻がここに来た理由は何だろうか。いつもなら堂々と前を見据える彼は、今日は少し視線を落としている所為で表情が読み取れない。ここは自分から一歩踏み出さないといけないと、早鐘を打つ心臓を深呼吸し落ち着かせた。想いを伝える為に、緊張で震える喉から無理矢理声を出した。
「あ、あの、大……」
「結人……」
大槻は俺の言葉を遮り、何かを言いたげに名を呼んだのだ。そんな彼の瞳は真剣そのものだった。
そして彼は、急に頭を深々と下げ、言葉を発したのだ。
「結人、俺は、お前に最低な事をしてきた。本当にすまない」
「え……?」
予想外の行動と突然の謝罪に戸惑った。大槻が下げていた頭をゆっくりと上げると、視線が交り合った。
何故、大槻が謝るのだろう。最初からユウナとして偽り騙してきたのは自分であって、彼の恋心を踏み躙ったのだ。
確かに正体が知られてしまってからの関係は辛かったけれど、大槻に触れられる悦びを知り、欲を満たしていたのは否めない。彼の熱情に触れたいが為に、無意識であっても、自らユウナを利用していたのだから。
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