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「俺が、ユウナと初めて会った時から、心惹かれた事は紛れもない事実だ」
大槻が静かに語り出したので、ただ黙って耳を傾ける。
「身も心も、全て揺さ振られた気がした。今まで、どんな女にも揺さ振られた事が無かったが、ユウナは本気で、手に入れたい女だと…そう思えてならなかった」
やはり大槻は未だユウナの残像を引き摺っていると痛切に感じた。
(それを最後に言いに来たのだろうか――?)
胸に痛みが走り、罪悪感がこれ以上に無いほど膨れ上がるが、大槻の話はケジメとしてちゃんと聞かねばならないと、グッと堪えた。
「……両親からは結婚を急かされて、見合い話も頻繁に持ちかけられていた中でのユウナとの出会いは、奇跡とも捉えたよ。人生を共にしたいと思える女がやっと現れた……と」
結婚を考えるぐらいに惚れ込んでいたという事実は胸に突き刺さるようだった。開いていた手をギュッと握り締めて悲しみを抑え込む。
「でも、それは……今まで無意識下にずっと閉じ込めて、本当の想いを誤魔化してきた事にも気付かされたよ」
「……?」
言っている意味がわからず困惑していると、大槻は見つめ合ったままの瞳を少し細めた。
「結人が昔、突然姿を消した時、言い様もない虚しさや寂しさに襲われていたんだ。ただ、それは……親友を失ったからだと、最初はそう思っていた。……だが、違った」
「……大槻?」
「結人。俺は、お前に出会った瞬間から、身も心も全て攫われ奪われていたんだ……ユウナじゃないんだ」
「――え?」
ユウナじゃないと言われ、大きな心音がドクンと下からつき上げてきた。
「ユウナは俺の中で女だった。それを、自分の倫理観や道徳、世間の常識から、咎められるのを反らすかのように利用していたんだ。だって、おかしいだろう?男が男を好きになるだなんて、そんな事許されない……それでも俺は! ユウナの中に結人を見ていたんだ……」
いつも冷静な大槻が珍しく感情的になっていた。ホテルで正体を暴かれた時とはまた違う激情に戸惑い、思考が停止した。
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