恋愛変装-偽りの再会-

揺れ乱れる心

店も閉店しロッカー室に戻ると、扉付近の壁を背にズルズルと座り込んだ。
掌には先程手渡された大槻の名刺がある。まだ気持ちの整理がつかないのか、小刻みに震える手で名刺を確認した。
そこには誰もが知る大手一流会社の名前と共に、第一営業部部長・大槻一哉と記されていた。
あの若さで部長役職に就いているとは、流石大槻だと思った。

（――まさか、こんな形で再会をするなんて）

「……冗談じゃないっ！」
つい感情が露わになり、ハニーブロンドのウィッグを少し乱雑に外した。
想いを絶ち切る様に地元を離れた六年前。決別したつもりの恋心が奥底で燻る度に何とか誤魔化そうと必死だった。もう会えない、会う事もないだろうと、自分で決めた道を後悔なんてしたくなった。後悔なんてしたら、それこそ惨めに思えて、報われない恋から解き放たれないような気がしたかだ。

けれど今日、大槻の声や仕草、体が触れ合いそうな距離に、胸がうるさい程高鳴ったのは事実だった。記憶の中に眠っていた六年分の想いが一気に体中を駆け巡った。そこで再確認した事は、やっぱり自分は大槻の事を忘れられないという事だった。

「忘れられないって……」
小さく呟いた声と共にふと鏡に写った自分の姿を見る。そこには取り払ったウィッグでボサボサに散らばった自分の色素の薄い髪、女性に見えるよう完璧にメイクされた顔、濃紺のロングドレスを纏ったもう一人の自分がいた。誰が見ても女そのものだ。