残酷な偶然

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(それって、もしかして……!) 「土曜日も二人に内緒で行ったら、ふとしたきっかけで一対一でゆっくり過ごせたんだが、あれはなかなか良い夜だった」 間違いなく俺が化けるユウナの事だと確信した。 「ホステスだなんて、誰にでも良い顔するのが商売だろ?……まさか、本気とか言い出すんじゃ……」 動揺しきった気持ちを隠し、ホステスの女に本気になるなと釘を差した。 「まぁ、確かにそれが仕事だからな。ただ彼女は何か惹かれるものがあった……」 (惹かれるもの? ユウナに?) 会って間もないというのに、どうしてそんな感情を頂いているのだろうかと考えだけが巡っていた。 「…………」 「ん?あぁ、結人はそういう女性は嫌いそうだな。だが、ああいった場所で夜を楽しむのも悪くない。ビジネス上、必要な時もあるからな」 黙こくっていると大槻は自分の考えを述べ、グラスビールを飲み干した。大きな喉仏が上下していた。 「どうだ? 勉強がてら一度一緒に行ってみるか? 明日もまた行く予定なんだけどな」 「……いい、遠慮しとく」 (行けるわけないだろう。いや、行ってるけどさ……) 「そう言うと思ったよ。まぁ、本気と言われてみたら流石にそれはない。大人な一晩のお相手は願いたいけどな」 さっきの俺の問いの答えがそれだった。やはり火遊びのつもりかと納得し安堵した。本気だと言われたら、どうしようもないじゃないかと。 明日をどうやって乗り切ろうと、不敵な笑みを浮かべる大槻を見ては、酷く憂鬱な気分になった――。
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