0人が本棚に入れています
本棚に追加
「まだ彼が元気だった時。ふと、彼のモジャモジャ頭を切りたくなったの」
私は蓋を閉めようともがいて話しだした。だけどそれは無益で、毒にしかならない。止めようとすればするほど、饒舌になっていく。広い店内に私を寛容してくれるのは、目の前の男だけのような気がした。
「目に入ってチカチカするのに無頓着だったから、私が髪を切ってあげたの。寝てる間にそっとね。
それ以来、寝室が別になった。まわりには殺されるって話してたみたいよ。さんざん、私を神様みたいに崇めていた癖に。そのころから立場が逆転して……最終的に、王様になってた。少しでも逆らうと、やっぱりあの時俺を殺す気だったんだって、すすり泣くのよ。バカよね、殺したら自由になれない。自由を手に入れるには、お金が必要なのよ。わかる?」
男は少し困った顔をして、頷いた。
「さっき彼7回目の発作を起こしたの」
「え?」
「苦しそうに『おい!』って呼ぶ声がした。たぶん」
「……」
「だから本屋さんで夢を見ていたの。これは夢で、現実はヘルパーさんが対処してくれて、今も生きてるって、そう願って」
男はまた笑った。今度の笑顔は少しだけあたたかかった。
「たぶん、生きてますよ。早く帰って、美味しいご飯作ってあげてください」
最初のコメントを投稿しよう!