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――
大学は地元の国立大学へ進学した。
本音を言えば私立の大学で野球を続けたかったが、家はそんなに裕福ではなかった。
この頃から、プロの動きを、動画で研究するようになり始めた。
“180cm”でも小柄だと言われるプロの世界で、“170cm”でクリーンナップを打つバッターを見つけた。
その時の自分の身長が丁度“170cm”。
中学や高校で、本気でプロを目指していれば……
心からそう思った。
それでも野球からは離れられず、地元のクラブチームで硬式を続けた。
高校野球とは違った大人な野球。
そこには新しく得られるものが山ほどあった。
――
転機を迎えたのはそれから十年後。
監督のツテでプロのテストを受けてみないかと誘われた。
この歳では本当に即戦力レベルでないと獲ってはもらえないと分かってはいたが、捨てきれなかった夢の、最後のチャンスに賭けることにした。
――
基礎能力を図る一次テストを通過して望んだ実践のプロテスト二次当日。
三打席のアピールチャンスで、結果は三打数一安打。
唯一のヒットはホームランで、二つの凡退は空振り三振。
中学でも高校でも見せたことのない、精一杯のフルスイングだった。
『第7巡、選択希望選手……』
固唾を呑んで待ったその先では、自分の名前が呼ばれた。
誰も知らない無名選手の指名に、多少ざわついていただろうか。
俺を指名した地元球団の指名は、七巡目が最後だった。
因みに、一巡目で指名されたのは10歳年下の、高卒ルーキーだった。
この高卒ルーキーと28歳のアラサールーキーが新人王を争い、後者が勝ち取ったのは、また別の話だ。
――
高校時代、レギュラーでもなかった新人王は、受賞後の記者からのインタビューでこう語った。
「プロ野球選手になるのは小さい頃からの夢だったそうですが、異色の経歴で新人王の受賞、おめでとうございます。そこで一言、夢の叶え方について、教えて貰っても宜しいでしょうか? 」
「はい。自分は一度、夢を諦めました。でも、別に諦めたっていいと思います。ただ、捨てさえしなければ、可能性は残されるのですから」
と。
今日も背番号10番は、グラウンドを駆け巡る。
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