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つくづく、私には危機管理能力というものが、大いに欠落していたのだな、と思う。
「ごめんね?さき…」
彼女のその所業は、過去に何度も見聞きして来たというのに。
でも、妙な自信が私の判断を鈍らせていた。
それまでの彼女の恋愛遍歴は不可抗力によるもので、まさか十年以上の付き合いのある私を同じような修羅場に巻き込む訳がないと。
私にそんな仕打ちをする筈はないと。
しかし、彼女は誰に対しても、ある意味清々しいほどに平等に公平に、残酷な子だった。
自分の欲望を、あるがままに押し付けられる子だったのだ。
「でもね」
彼女…早乙女梨華は涙に濡れた目で私を真っ直ぐに見つめ、震える声で囁いた。
「この気持ちは、もう誰にも止められないの」
いや。
そもそも、彼女と友達だと思っていた事さえ、間違いだったのかもしれない。
『可愛い子は、泣き顔になっても、その容姿が残念な方向に崩れる事はないんだよね…』
半ば現実逃避のように、そんなどうでも良い事を考えながら、美しくすすり泣く梨華と、彼女の右隣でずっと無言のまま項垂ている、数十分前までは恋人だと思っていた男を、私はただぼんやりと眺めていた。
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