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「お嬢様……」
耳元で圭の優しい声がする。
(もう、お嬢様はやめてって言ったのに)
半分夢の中にいながら、千春は思う。さっきよりも深いまどろみに意識が埋もれていく。
「僕はずっとお嬢様をお慕い申し上げておりました。けれどそれは届かぬ願いだとずっと押し込めてきました」
その手が千春の髪をなでるのが分かった。
「あなたが僕を選ぶと言ってくれたとき、気持ちを隠すことができなくなってしまった。歯止めがきかなくなってしまった」
夢の中で心地よく響いてくる圭の声に、千春は完全に意識を委ねる。
「赤い糸は僕には見えません。あなたがそれを切っただけでは満足できなかった。だから僕が展開を後押ししたのですよ。ずっとあなたと共にいるために、あの男を手にかけようとしたのです。まぁ殺し損ねましたけれどね。すべては愛のために。あなたを手に入れるために。分かってくれますよね。聡明なお嬢様なら。――ねぇ千春?」
【了】
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