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千春はにっこりと微笑んでみせた。それにはさすがの圭もたじろいだ様子だ。冷静でどこか大人びて見えていた彼が、年相応の少年に見える。
「お待ちくださいっ。財閥のご令嬢ともあろうお方が、使用人と手をつないで歩くなどもってのほかです」
道行く人々がこちらに視線を投げかけながら通り過ぎていく。
「並んで歩いてくれるっていうなら、手を離してあげる」
「分かりました。……かなわないなぁ、お嬢様には」
そのはにかんだような笑顔に、千春は不覚にもどきりとしてしまう。先ほどまでと逆転してしまっていた。
「わ、分かればいいのよ、分かれば」
千春は気取られないように、わずかに顔を背けたのだった。
店内は落ち着いた雰囲気だった。温かみのあるオレンジ色の照明、お洒落に縁どられたすりガラス、アンティーク調の机と椅子。どれをとっても素敵だった。
紅茶の芳しさと甘い匂いが鼻をくすぐる。
パフェと、敢えてコーヒーを注文した千春に、圭はくすりと笑った。
「お嬢様にコーヒーは少し早すぎるかと」
「そんなことないわ。私だってもう十六よ」
憮然と答えた千春だったが、運ばれてきたカップに口をつけ、思わず顔をしかめた。
「だから言ったのに」
楽しげな圭の様子に、千春もつられて笑ってしまう。
子供の頃に戻ったような圭に、千春はうれしさを隠しきれない。
こうして向かい合いながら改めて彼を見つめると、端正な顔立ちにはっとさせられる。
(今まであまり気にしていなかったけれど、圭って美少年なのね……)
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