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天陽が亡くなって悲しいのに、意外と冷静な自分を薄情だと思ったり、ここまで見送ることができて自分のことながらちょっと偉いなと考えたりしていた。だから、油断していたのだ。
それは突然きた。
天陽がもうここにはいないという実感が、急に襲ってきた。文字通り涙がぶわっと溢れてきて、嗚咽で呼吸がうまくできなくなった。全く動けなって、ハンドルに顔を埋める。
なぜ、俺は今ひとりでこんなところにいるんだろう。
なぜ、天陽の後を追わなかったんだろう。
睦生に止められた後も、いくらだってチャンスはあったのに。
今の柊は生きる気力も、死ぬ勇気もなくなったただの抜け殻なのに、心は抜け落ちてくれない。そこに残って、ただただ苦しいだけだ。
しばらくするとガラスを叩く音がした。驚いて顔を上げるとそこには喪服姿の睦生が立っている。
「児玉さん、来てたんだな」
「先生は……?」
「今帰りだ。これから駅へ向かおうと思っていたんだが……おいあんた、大丈夫か?」
「だい、じょうぶです……」
はやく睦生にいなくなってほしくてそう答えたが、嗚咽と、体の震えが止まらない。結局は「顔色も真っ青だし、何歩譲っても大丈夫そうには見えない」と、睦生に強引に運転を代わられ、アトリエまで送ってもらうことになった。
「食事は摂れてるのか?」
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