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「……一応、栗原さんに連絡してみます」  栗原に電話を掛けるとすぐに繋がった。 「金額ですか? 間違いはないですよ」 「だっていくら天陽さんちが広いと言っても更地にしてるし、そんな金額にはならないと思うんですけど……」  急に栗原が大声で笑った。 「ど……どうしたんですか?」 「やっぱりあなた、契約書をちゃんと読んでいなかったでしょう? 敷地は住居と庭だけじゃないですよ。山ひとつ分ですから」 「は……?」 「うすうすわかっていましたが、あなたの欲の無さには呆れますね。アトリエが背負っている山までが、桂木さんの所有地だったんですよ」  そういえば覚えがある。まだ就職したばかりの頃、休みの日に天陽から山菜を採りに行こうと誘われてついて行くと、裏の山に颯爽と入って行ったことがあった。 「ねぇ、山菜とかって勝手に採っちゃいけないんじゃなかったっけ?」  心配になってそう聞くと「大丈夫大丈夫」と天陽は笑っていた。あのときはやっぱり芸術家なんてマイルールで破天荒なんだと思っていたが、そういうことだったのか。どこまで狸親父なのだろうと思うとおかしくなり、そして涙が出てきた。 「児玉さん?」 「なんでもないです……ありがとうございました」     
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