278人が本棚に入れています
本棚に追加
「……一応、栗原さんに連絡してみます」
栗原に電話を掛けるとすぐに繋がった。
「金額ですか? 間違いはないですよ」
「だっていくら天陽さんちが広いと言っても更地にしてるし、そんな金額にはならないと思うんですけど……」
急に栗原が大声で笑った。
「ど……どうしたんですか?」
「やっぱりあなた、契約書をちゃんと読んでいなかったでしょう? 敷地は住居と庭だけじゃないですよ。山ひとつ分ですから」
「は……?」
「うすうすわかっていましたが、あなたの欲の無さには呆れますね。アトリエが背負っている山までが、桂木さんの所有地だったんですよ」
そういえば覚えがある。まだ就職したばかりの頃、休みの日に天陽から山菜を採りに行こうと誘われてついて行くと、裏の山に颯爽と入って行ったことがあった。
「ねぇ、山菜とかって勝手に採っちゃいけないんじゃなかったっけ?」
心配になってそう聞くと「大丈夫大丈夫」と天陽は笑っていた。あのときはやっぱり芸術家なんてマイルールで破天荒なんだと思っていたが、そういうことだったのか。どこまで狸親父なのだろうと思うとおかしくなり、そして涙が出てきた。
「児玉さん?」
「なんでもないです……ありがとうございました」
最初のコメントを投稿しよう!