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電話を切ってから、睦生にはちゃんと話さないと……でもどうやって説明しようかと躊躇した。それを見透かしたように睦生がそっと手を握ってくる。
その顔に浮かぶのは慈しみの表情だけで、嫉妬などの感情は見えない。だから余計に申し訳ない気持ちになる。
「ごめん……急に思い出してしまって。これからもこういうことがきっとある……すみません……」
こんな姿を見せたくはないのに、嗚咽が止まらない。そんな柊を睦生はやさしく抱きしめてくれる。
「仕方ないさ、嫌いになって別れたわけじゃないんだ。それも含めて、俺は柊を好きになったんだよ」
「でも……」
「これからもそういうことがあったら、俺が焼きもちを妬いて拗ねるから。それでケンカして、仲直りして、また一緒にご飯を食べよう」
「先生のそういうところが好きだけど、なんかムカつきます……」
「必死なんだよ。柊を繋ぎ止めておくためなら、なんだってする」
前を見据える睦生は先ほどと変わって、少しだけ不安を覗かせた。
「俺だってすべての問題が解決したわけじゃない。いつかは向き合わなくてはいけないときがきっとくる」
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