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「それは悪かった、児玉さん。それであ……、児玉さんは、桂木さんのお世話をするために会社を?」
「そんな大層なものではないです。ただ俺が最後まであの人のそばにいたかったというわがままを通しただけなので」
気付けばぽつりぽつりと、天陽とのなれ初めを睦生に話していた。
大学生のときに天陽と知り合ったこと。就職してすぐにここに転がり込んだこと、病が発覚して退職を選択したところまで話してはっとする。
「すみません……なんか俺いろんなこと話しちゃって。ゲイの恋愛話なんて気持ち悪いですよね」
「そんなことはない。誰にだって、無性に話を聞いてほしいときはあるもんだ」
そうほほ笑む睦生の顔は少し寂しげだった。睦生があまりにも自然に自分の話を聞いてくれるから思わず話してしまったけれど、普段だったら身の上話を人に話すことなど絶対になかったのに。
やはりどこか自分の気持ちは不安定になっているのだろうと思わざるを得なかった。
少しして、睦生が帰り支度を始めた。アトリエを後にするときに、先ほどの中華料理店で買っておいたという粥をくれる。
「中華粥だから、胃に優しいがそこそこパンチのある味付けでうまいぞ。仕事が忙しすぎて長い時間食べられなかったときに、俺もよくわけてもらうんだ」
「……ありがとうございます」
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