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 袋を受け取ると「テイクアウトは俺にしかしてくれないんだぜ」と得意げに笑った。  睦生がいなくなってひとりになると、このアトリエの広さをひしひしと感じた。天陽の告別式も終わってしまうと、本当にすることがなくなってしまい唖然とする。  天陽を見送ったときに柊を襲った喪失感は、ずっと纏わりついていて、日に日に柊の体を蝕んだ。  苦しさは、日を追うごとに癒えるのではなく、ますます強くなるばかりで、涙も枯れることはない。どこにいても、天陽の面影を探してしまう。  ベッドの中ですら、心と体を休める場所にはならなかった。  アトリエには、天陽が健在のときは、よほどのことがない限りほとんど足を踏み入れたことはなかったが、今は毎日のように訪れて水と野菜を供えている。  十年間ほとんど変化のなかったこの天陽の城が、ほとんどの器を持っていかれたことによって、まるきり違う場所のようになってしまったことは、さすがの柊にもわかった。  いつも天陽が作業をしていた腰掛けのそばに行くと、紺色の作務衣が目に入った。制作をするときの服装にこだわりのない天陽だったが、粘土が服につくような作業のときは、この作務衣を好んで着ていたことを思いだす。それは随分と、昔のことのように思えた。 「天陽さん……」     
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