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「児玉さんっ!」
必死な声に、目を開けた。正確に言うと目を開けるのすら億劫だったが、体をゆすられてその反動でまぶたが開いてしまった。何度も自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。心地いい声音だが、親しい人にこんな声を出す人はいない。
「くそっ……体がこんなに冷たい……こだまさん、大丈夫か?」
今の自分にこんなに心配そうな声をかけてくれる人なんていたっけ? そんな人はいない。きっと夢でも観ているのだろう。寂しい気持ちを埋めるような、都合のいい夢。
そういえば天陽は、死んでから一度も柊の夢に出てきてくれない。もう柊のことなんて忘れちゃったんだろうか。天国はいいところらしいから、きっと忘れてしまったんだろう。
「……だま、さん。児玉さん」
呼びかけがあまりにもしつこいので、閉じかけた目をまた開いた。肩を遠慮がちに叩かれると、やっと焦点が合う。睦生がそこにいた。
「……先生? なんで」
「とりあえず、暖かいところへ連れていくぞ」
睦生が柊の手を引いて、立ち上がらせようとした。その手をなんとか振り払う。
「俺に触らないでください……」
はっとしたような睦生が手をひっこめた。ごめんなさい、でも誰にも触られたくない。
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