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「……わるかった」 「ごめんなさい、でも、せっ……かく、天陽さんが……きれいにしてくれたんだ……だか、ら、さわらないで……」  頭がぐるぐると回って、混乱する。なぜ睦生がここにいるのか、なぜ天陽は死んでしまったのか。  なぜ――俺はここでひとり泣いているのか。  あれほど天陽の匂いがしたと思った作務衣も、今はどんなに掻き抱いてもなんの匂いもしなかった。 「……た、すけて」 「児玉さんっ、大丈夫か?」 「もう、匂いもしない……天陽さん……がいない……」  頬を伝った涙が驚くほど熱い。今目の前にいるのは天陽ではなく睦生だ。少し冷静になると柊の体が冷え切っているのを自覚して途端に震える。 「すぐ暖まるからな」  睦生は一旦柊から離れてアトリエのストーブに火を入れると、視界から消えた。  少ししてまた何度も名前を呼ばれ、うっすらと目を開くと、腰掛けに横になったまま毛布を掛けられていた。目の前で錠剤を見せられる。 「口を開けて。俺の薬だが、飲むと楽になるから」  暖かい、と思ったらまたまぶたが重くなった。「触れないから安心しろ」という睦生の声が聞こえる。それはとても遠くからのように感じて、今度こそ閉じたまぶたは開かなくなった。
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