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 いつからか、心に決めていた。彼が死んだら自分も後を追おうと。彼がいない世界など、何の意味もない。  だがそう思っていることを、天陽に見破られていたとは思わなかった。 「なにをしているっ!! すぐにそこを離れろっ」  柵に足をかけたまま柊は振り返った。髪の隙間を抜ける風を冷たいと感じ、自分がまだこの世にいることを痛感する。 「見ての通りです、飛び降りるんだから放っておいて。誰にも迷惑かけないから」 「迷惑だよ」 「は……?」 「ここはうちの病院だからな」  男はきっぱりとそう言った。 「……っとに、桂木さんの言った通りだな」  その男――天陽の主治医である蓼川睦生(たでかわ むつき)が発した言葉の意味がわからず、柊は睦生を睨んだ。 「とりあえずその場所から離れろ」  もう、何かを考えることは面倒だし、抗う気力もなかった。結局睦生のいいなりで中庭まで来てしまった。睦生はベンチに柊を座らせ、近くの自販機でココアを買うと、柊に投げてよこした。
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