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そのお湯でお茶の用意を始めると、睦生がコンビニの袋を差し出してきた。中にはサンドイッチやおにぎり、プリンやヨーグルト、コーヒーなど、いろいろなものが入っている。
「俺に?」
「この中に食えそうなものがあるか?」
睦生は一瞬だけ目を合わせたが、その後はまたふっと視線は下を向いてしまう。この人はずっとこんな感じだ。
なんだか人のテリトリーに信じられないくらいの入り方をするくせに、それとは裏腹に、自分のしたことに自信がないようだ。総合病院の跡取り息子で、自身も医師でありながら、端正な容姿、そんな恵まれたものを沢山持っているだろうに、どこかアンバランスで変な人だ。
「ねえ……先生」
「なんだ?」
「最近の主治医は、患者の愛人のアフターケアまでするんですか?」
睦生は一瞬瞠目したが、何も答えなかった。柊の方もいろいろ聞きたいこともあったが、億劫さが勝ってしまった。
睦生はそれでも淹れたお茶には素直に口をつけている。こんなに食べ物や飲み物を買ってきてくれているのに、自分では何も飲み食いしているような形跡はなかった。
お茶を飲み終えると睦生は「ごちそうさま」と立ち上がった。きっと帰るつもりなのだろうが、この人はやはりどこか抜けている。
「児玉さんが目を覚ますまではと思っていただけだ。本当に悪かったな」
そう言いながら上着を着始めたので、仕方なく声をかけた。
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