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「結婚は……確かしてらっしゃらないようですけど。彼女はいないんですか?」
「いらない。面倒だ」
どうせ近づいてくるのは自分の職業や、背景にある実家の総合病院目当てだろうし、そもそも本人の無精に加え、多忙と不規則な生活につきあい続けてくれるようなもの好きなどいないだろうと切り捨てる。
ただ、忙しいというのは本当だろうが、柊にはどこか言い訳に聞こえた。現にここには足繁く通っているわけだから、できないわけではないのだろう。何か他に理由がありそうなのは薄々気づいているが、睦生はその部分には厳重に鍵をかけているような印象だった。
「桂木さんは、幸せだったんだろうな。こんなにうまい飯がいつも食えて」
突然そんなことを言われ、心臓がずきんと跳ねて呼吸が止まりそうになった。そんな様子に睦生が慌てる。
「悪い……つい」
「大丈夫です。でも俺が作るようになったのは最近のことです。仕事が忙しくなっちゃうと平日はほとんどうちにいられなくて、帰れないこともあったくらいで……だから病気になるまでは天陽さんが作ってくれることが多かったです」
「そうだったのか」
「……はじめは仕方なしにしていました」
「え?」
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