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「先生が何度もここに来るので、なんとなく食事を作り始めました。天陽さんが入院してから、自分ひとりのために食事を作る気力もなかったですけど」
仕方なし、なんて失礼なことを言っているのに、睦生はなんだかうれしそうな顔をしている。
「……なら俺は、野菜と一緒だな」
「え?」
「野菜も俺も、仕方がないから、児玉さんが世話を焼いてくれるんだろ?」
「なんか俺、偉そうなこと言いましたね」
「桂木さんは、どこまでわかってたんだろうな」
「えっ……」
「結構な狸ジジイだよな。「見守ってくれ」なんて、突拍子もない依頼でも、なんだかんだ俺が遂行しちゃう性格だって見抜かれてたんだと思うぞ」
「そうでしょうか」
天陽相手ではあまりにも差がありすぎて、はなから競うつもりもなかった柊には、そのあたりがよくわからない。
それよりも、いつのまにか天陽とのことが思い出みたいになってしまっていることに唖然とした。いつまでも悲しみに浸っているのがよくないことはわかっているが、悲しいと思う時間が少しずつ減って、変わってしまうことが怖い。
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