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二日後、以前からの予定のため、電車に乗って都心を目指した。久しぶりの人の多さに、くらくらとめまいを起こしそうになる。十年近くも長時間の通勤ラッシュを耐えていたのに、随分体が鈍ったものだ。
目指したのは栗原の事務所。高層ビルの中層エリアにその事務所はあった。
目的の階で降りると、あらかじめアポを入れた時間きっかりに受付を訪ねた。受付で内線を掛けてもらうと、すぐに栗原がやってきた。
「お忙しいところ、お時間を頂いてすみません」
「全然かまいませんよ。今日は、どうされましたか?」
栗原は相変わらずゆったりとした柔和な雰囲気で、忙しさのかけらも感じさせないが、きれいに整っている机周りに書類が積み上げられている一画があり、いろんな案件を抱えていることを予想させる。ソファを勧められ腰を下ろすとすぐに本題に入った。
「実は、アトリエをお返ししたいんです」
話を切り出すと、栗原は小さくはあとため息をつく。ある程度予想していたような反応だった。
「すみません。もっと早くお伝えしたかったのですけど」
「いえ……四十九日が明けたのは昨日ですもんね」
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