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白井香澄が生まれ育った神奈川から、南大阪に住む叔母の家に預けられることになったのは、中学2年の春からだった。香澄の親の海外赴任先の治安の悪さを心配した叔母が、2人が帰国するまでの2年間、自分が香澄の面倒を見ると買って出てくれたのだ。
大阪府高石市の叔母の家から、南海線で堺駅近くにある私立中学に通う日々が始まった。
香澄はひどい人見知りであるうえに、変声期の少年のように掠れた声の持ち主だった。小学校時代、そのハスキーな声をからかわれ、香澄は更に、他人とのコミュニケーションを取らない少女になってしまっていた。
その香澄が、いきなり見知らぬ大阪で暮らすことになったのだ。叔母は早くなじめるように気を使ってくれたが、香澄は親しい友人も作らぬまま、いつもひっそりと1人の時間を過ごした。
編入したクラスは気さくな子が多く、苛められるようなことは無かったが、いつまでも打ち解けようとしない香澄を、皆次第に空気のように扱った。
だから香澄が本当は歌や音楽が好きで、叔母の家に帰ると小さなキーボードを自分で弾き、好きなアーティストや自作の曲を楽し気に歌う姿など、誰も想像もできなかっただろう。
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