Lonely whale

5/21
前へ
/21ページ
次へ
 清田の印象が香澄の中で大きく変わったのは、実習が始まって3週間目に入った、月曜日の放課後だった。クラスメイトが出て行った後の教室で、ゆっくりと帰り支度をしていた香澄に、彼は声を掛けて来たのだ。 「それ、クジラやんなぁ。手作り?」  ハッとして、こちらに歩いて来る清田を振り返り、その視線を辿ると、通学カバンの横にぶら下げていたマスコットが揺れていた。 「……はい。叔母が作ってくれました。手芸が趣味だから」  少し緊張気味に返すと、清田はにっこり笑って香澄のすぐ横の席に腰かけた。 「優しい叔母ちゃんやね。いいなあ、めっちゃかわいい」 「……そうですか」  叔母は優しいし、このマスコットはお気に入りだが、あえて話題にする事ではないように思えた。なぜこの先生は、自分になんか話しかけるのだろう。 「クジラ、……好きなんですか?」  困惑しながら、そう問いかけてみた。なにか話さなくてはいけないような、そんな空気感があった。 「うん、海のそばで育ったから、海に住む生き物は子供のころから好きやった。ちっさい頃はみさき公園に何回もイルカショー見に行ったな。白井さん、見に行ったことある?」  自分の名前を覚えてくれていたことにも驚いたが、じっと見つめて来る子供のような瞳に、香澄はドキリとした。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加