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「先生に聴いてほしかったんです。私の歌を。私の気持ちを。もう会えないかもしれないけど、いつか届けばいいって」
清田はゆっくり視線を香澄に戻し、一度キュッと唇を引き締めたあと言った。
「うん。ちゃんと届いた。あの歌詞の52みたいに、いっぱい頑張って歌ったから。真っ先に届いた。ありがとうな」
不意に香澄の目から涙があふれ、視界がすべて夕日と同じ金色に滲んだ。
「また、会いに来てもいいですか?」
「え、……僕に?」
「この海に」
「ああ……」
はぐらかした香澄に、清田が声を出して笑った。
「ええよ。おいで。僕も、海も、君の52も、いつでもここで君を待ってるから」
声をあげて泣きそうになるのを必死で堪えて香澄は頷いた。
ふわりと、海から吹いて来た潮風に交じって、52ヘルツの歌が聞こえたような気がした。
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