真実の夜*

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隼珠の言葉に、迅鷹が眉根をよせた。言われた内容に心の負担がかるくなるわけではなく、むしろ罪は重くなったという様子をみせる。隼珠にそんなことを言わせてしまう自分を、責めているようだった。  だから隼珠は、その罪の意識をなくして欲しくて、強く言った。 「運命だったんだ」  こうなってしまう。  誰も避けることのできない、全ての人間が抱える、抗えない大きなもの。源吉も清市も沢口も――そして自分も、この人も――。 「鷹さん、俺が知りたいのは、ただひとつだけなんです」  いつの間にか足はとまっていた。ふたりは(たたず)み、見つめあっていた。 「鷹さんが、俺を情夫にしたのは、負い目からだったんですか」  問いかける唇が震える。  相手に対してひどく心ないことを訊いているのは分かっていた。迅鷹は隼珠をとても大切にしてくれたのに。  けれど、隼珠には、いつもどこかに不安の種があった。 「俺が、我儘をいって、そばにいたいと(すが)ったから、情けをかけてくれたんですか」  心の芯はつながりたいと言いつつ、最後の最後はよせつけない。いつかは離れることを予期している。だから、一線を引かれている心細さがたえず身体の底にあった。  迅鷹の本心を知りたい。この人が、自分をどう思っているのかを。  抗えない大きな運命にも侵食されないものがあるのだとしたら、それは人の心だろう。それだけは、自分の力で変わらず保つことができる。  運命にとらわれず、人が抱えていられるもの。  迅鷹の心の芯にある、それが知りたい。  相手の顔がギュッとゆがんだ。 「馬鹿野郎」  つかんだ手に力がこもる。 「そんなわけあるか。俺が、お前をそんな風に扱うわけねえだろう。お前は、俺にとって――」  隼珠の瞳から、一筋の涙がこぼれた。  知らぬうちに感情がたかぶって、限界を越えていたらしい。それが月明りにさらされる。迅鷹は言葉をとめた。  隼珠の濡れた頬に、指をそっとそえてくる。闘いの後の硬い指先だった。見れば、迅鷹の顔には小さな傷がいくつもある。きっと身体も傷だらけなのだろう。隼珠も同様に、縛られていた手首が擦り切れていた。
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