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伊助が事情を説明する間、隼珠は俯いて頭をさげていた。迅鷹に顔を見られたくなかったからだ。男のなのに妾として売られていく自分をどんな目で見ているのか。それを知るのが、なぜか怖かった。
「なるほど」
迅鷹の声は静かだった。
「じゃあ、仕置きは、あの肥えた狸にさせるわけだな」
「へえ。そういうことになりやすかね」
意味ありげに笑った伊助に、迅鷹は続けた。
「そんな楽しみを、あの豚狸にさせるのも癪だな」
ふぅむ、と考える声がする。
「よし、だったら、俺がその仕置きをしてやろう」
「へい?」
伊助が間抜けた声をあげた。
「俺がそいつを仕置く」
「え? へ? へい?」
「俺の縄張りを荒したんだからな」
「あぁ、へえ。で、でも、こいつは、もう、沢口社長と話がついてるんで……」
「だったら社長に伝えとけ。この壺振りは白城の迅鷹がもらうことになったからあきらめろ、と」
ぽかんとなった伊助は、一瞬の後に我に返って言った。
「し、しかし、こいつを売らなきゃあ、あっしが大損するんで、困りまさあ親分さん」
「ならそれがおめえへの落とし前だ」
「そんな殺生な」
弱り顔の伊助が食い下がる。
「百円の借金に、こいつをここまで育てた手間賃、そいつをなしにされちゃあ、こっちも立つ瀬がござんせん」
「百円で俺のゆるしが買えるんだ。安いもんだろ。こいつの仕置きは俺がする。それが嫌なら三百円用意しろ。それが落とし前だ」
「……親分さん」
勘弁してくだせえよ、と小さく呟く。
「俺の賭場で、おめえんとこの餓鬼が匕首片手に暴れようとしたんだ。それを未然に防いだのは、俺自身なんだぜ。俺がいなかったらどうなってたか、わかってんのか伊助。この鶴伏でこれからも楽しく遊びてえなら、黙って言うこと聞いとけ」
悪い笑顔で相手を脅す男に、伊助が納得できない表情ながらも渋々うなずいた。ここで逆らって恨みを買うくらいなら大人しく従っておくほうが得策と判断したらしい。伊助の贔屓の芸者は鶴伏にいる。
「……わかりやした」
「なら決まりだ」
男は快活に笑った。そして隼珠を振り返って声をかける。
「おい、おめえ」
隼珠は話の流れが全くつかめなくて、ぼんやりしていた。
「へっ、へい」
「お前は今日から、白城の鷹の持ちもんだ」
「へい」
わけが分からず、返答だけをする。
「荷物をまとめて、これから家にこい」
伊助が口をはさむ暇もなく、迅鷹が勝手に決めてしまう。しかし親分としては迅鷹の方がずっと格上なので、伊助は言われたことに従うしかなかった。
話は終わったと、迅鷹が立ちあがる。
「行くぞ、壺振り」
呼ばれた隼珠は、戸惑いながら、自分をただで手に入れた男を改めて見あげた。
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