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「俺にとってお前は、大切な標だ。人らしく生きていくための。だから抱いたのは、そんな理由なんかじゃねえ」
「鷹さん……」
「懸命に生きるお前が、愛おしくってしょうがなかったからだ」
隼珠が手を伸ばすと、迅鷹は抱きしめてきた。広い背中に手を回せば、相手も両腕で隼珠の細い背を包みこんできた。
「鷹さん……っ」
傷だらけの身体に縋る。迅鷹は宥めるように隼珠の背をなでながらささやいた。
「お前は俺のひかりだった。闇夜を照らすな」
「おっ、俺――。俺っ、はっ……」
こらえていた涙があふれだす。
「俺はっ、……鷹さんのことがっ……」
力いっぱい抱きしめれば、相手も同様に返してきた。
「好きです、好き――」
涙声で、吐息の合間に訴える。迅鷹の瞳が微笑むように、けれどいくばくかの哀しみをたたえて見返してきた。
「隼珠、これからも、俺についてくるか」
「うっ、うん――、へえ」
「地獄の果てまでもだぞ」
「ついていきやす」
この人と共に。いつか無限の闇に落ちるまで。
「なら、俺も、お前に人生の全部をやるよ」
「鷹さん――」
隼珠の答えは、迅鷹の唇にふさがれた。息さえ飲みこまれそうに、深く口づけられる。相手の想いが流れこんでくるようで、隼珠は唇をあわせながら心の底から震えた。
迅鷹が今までにないほど深く長く、隼珠の唇を貪ってくる。
たかぶった感情は渦を巻いて、身の裡を焦がしはじめ、触れた場所からこらえきれないやるせなさが生じてきた。甘くて痛いその感覚は、迅鷹に毎夜、教えこまれたものだ。
隼珠は他の男の手を知らない。そのことが、自分のすべてが迅鷹だけのために在れるようで、とてつもなく嬉しかった。
この人のためだけに。これからの人生を生きていこう。
薄い舌を懸命にさしだして、迅鷹の想いに応える。
知らず触れあった下肢をよじっていた。迅鷹がそれに気づいて唇をはなす。腰に回した手をいきなりグッと強くした。
「……」
それで隼珠のものが育ち始めていることが伝わってしまった。
隼珠の欲望を読み取った迅鷹が、無言で微笑みながらのしかかってくる。狭い空間で、隼珠は欅の木を背にして押し倒されるようにして座らされた。
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