368人が本棚に入れています
本棚に追加
/158ページ
そうやって冬を越し、夏を迎え、完成した久師川の堤防に生えたススキが背を伸ばすのに時の流れを教えられながら、一日千秋の思いで毎日をすごす。
やがて五年の月日がたち、迅鷹が釈放される日が近づいてきた。隼珠は洋服を新調して大切な人を迎える準備を整えると、亮に頼まれてひとりで仙台へと出かけた。他の子分らは屋敷で出迎える用意をすることにしたらしい。
宮城集治監の門の前で六角形の塔を遠目に見ながら、扉がひらいて中から人が出てくるのをただひたすら待つ。
夕刻になってから、扉は重い音をたててゆっくりとひらかれた。
中から看守に伴われ、着流しの背の高い男があらわれる。昔よりずっと短く刈られた髪に、少しやつれた姿。けれど幅広い肩と、堅気にはない冴えた瞳は変わらない。
隼珠はそっと一歩踏みだした。
男は看守に挨拶をして門の前から歩きはじめた。顔をあげて、道の先に隼珠がいるのを見つけると、眩しいものを見るように目を細める。
隼珠の心臓は、壊れそうなくらい大きく鼓動した。
「……鷹さん」
呼びかける声は、口の中だけで小さく消えた。迅鷹の表情は一瞬、知らないものを見るように怪訝になった。それに不安を覚える。
もしかしてもう、迅鷹は隼珠のことなど忘れてしまったのではないか。五年の間に気持ちも冷めて、好きだったことは一時の気の迷いと心変わりしてしまったのではないか。
足が凍ったように動かなくなる。怖くて先に進むことができなくなってしまった。
そんな隼珠を相手はしばらくの間、少し呆然としたように眺めてきた。凛々しい眼差しが眇められている。
おずおずとした顔で見返す隼珠に、やがて迅鷹はゆっくりと相好を崩した。
「隼珠か?」
久しぶりに聞く声に、口元がグッとさがる。
「……へい」
泣きそうになった隼珠に、迅鷹はなんともいえない感慨深い笑みをみせた。
「どこの華族の御子息がいるのかと思ったぞ。……背が伸びたな」
「へ、へい。あれから。……少し」
隼珠は顔を真っ赤にして答えた。そうしながら、張り切りすぎて洋装などしてきてしまった自分を少し後悔した。
最初のコメントを投稿しよう!