仲間

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 迅鷹は書類の山から一通の書状を選んだ。それを隼珠に突きだす。 「仲山町の材木問屋、和泉屋の主人にこれを届けてこい。場所はそこにいる亮に聞けばいい」  あごをしゃくって、離れた棚の前で整理をしていた男を指す。見覚えのある顔だった。出会った料亭で、迅鷹を迎えに来ていた男だ。 「亮はな、俺の親父の代からここにいる、信用できる一の子分だ。覚えておけよ」  亮が親しげに口元をあげる。隼珠のような下っ端にも威張ったところを見せない、穏やかな雰囲気を持つ壮年博徒だった。  隼珠も礼をして返す。 「なら、こっちへきなさい、隼珠」  亮が地図を棚から取ってきて広げた。隼珠はその横へ行き、地図を覗きこんだ。 「ここが和泉屋だ。わかるか」 「へい。わかりやす」 「じゃあ、行きなさい。返事を忘れずもらってこいよ」 「へい」  手紙を懐に詰所を出る。すぐに駆けだして、目的地へと向かった。  久師川の上流にある材木問屋は迷うことなく見つけられた。店の横に材木が何本も立てかけられていたからだ。隼珠は店に入り(おとな)いを告げた。店頭にいた番頭が主人に取り次いでくれる。しばらくすると奥から初老で白髪の店主が出てきた。 「白城の親分さんのお使いでいらっしゃいますか。そりゃあ、ご苦労様でございました」  と、丁寧に対応され、隼珠は驚いた。博徒の下っ端相手にこの気遣いは今まで経験したことがない。 「ささ、どうぞこちらにおかけになってお待ち下さい。今、お返事を用意しますので。おーい、白城の親分さんとこの若い方がいらしたぞ。お茶をお淹れしろ」  のれんの向こうに声をかける。はーいと返事がして、ほどなく盆を手にしたお多福のようにふっくらとした女性が出てきた。 「あらま、本当にお若い。初めてお会いする方ね」  着物に前かけをした明るい女性が、床机に腰かけた隼珠に愛想よく話しかける。隼珠は戸惑って、へえ、と曖昧にしか答えられなかった。  お茶と、真っ白でつるつるの饅頭が横におかれる。隼珠はなんだか気恥ずかしくて、どちらにも手をつけられなかった。
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