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「私はこの通り老いた。当たり前だ、あれから二十年も経ったのだから。なのに、君はどうしてあの頃のままなのだ?」
「ねえ、ヴィンセント。どうしてだと思う? 君と別れてからしばらくして、僕は歳を取らなくなったのだ」
「私と?」
「でもね、僕は思うのだ。僕は僕の容姿を気に入っているからね。いつまでもこの美しさを保っておけるのならば、それは何よりも喜ばしいことであるとね。ヴィンセント。いつか君と再会したときに、君は僕を見て喜んでくれると信じていた。なかなか思ったとおりに事は運ばなかったが。さて、ヴィンセント――」
ティムはぐっと声をひそめ、ヴィンセントの注意を引いた。彼の青い瞳をとらえた途端、ヴィンセントは全身を鎖で絡めとられたような拘束感を覚えた。椅子から立ち上がろうとするが、神経を断ち切られてしまったかのように指先すら動かすことができない。ティムの細くしなやかな指がヴィンセントの頬に触れる。
「――今度は僕が質問をしよう。ヴィンセント。君はどうして年老いてしまったのだい? 僕も美しいが、出会った頃の君はもっと美しかった。そうだろう、ヴィンセント。かつての面影はどこにもない。君はすっかり歳を取り、そして醜くなってしまった。これを悲劇と呼ばずして何を悲劇と呼べばいいのだろうか……」
ヴィンセントはティムの主張をひとかけらも理解できなかった。外見に関してはみすぼらしい自覚はあるが、現在のホームレスという身分にしては上等であると思っている。だが老いに関しては人間という生き物である以上逃れることはできない。誰も彼も年齢を重ねるごとに老いていくことは普通のことなのだ。
「ああ、ティム……やはり今の君は私の知っている君ではない。人は歳を取る生き物だ。それなのに君は、君という男は……」
「僕を信じられないというの? それならば君を信じさせるまでだ」
そういうとティムはおもむろに服を脱ぎ始めた。ジャケットを取り去り、シャツの前ボタンをひとつずつ開けていく。ティムの上半身がヴィンセントの眼前にあらわになった。彼の肌はやはり陶磁器のように白く滑らかであったが、その作り物じみた美しさが恐ろしかった。
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