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「ラッセルさん、どうしましたか。気分でも悪いのですか?」
「まさか、そんな、指が……人間の指が、どうして……っ」
人肉を口にした衝撃におののき思わず椅子から転げ落ちて震えているヴィンセントをよそに、薔薇屋敷の主人は片手にシチューの皿、片手にスプーンを持ち、うずくまる来賓に近づいた。
「ねえ、ラッセルさん。僕のもてなしは気にくわないかい?」
「ち、ちがう……ただ、ただ指が、ひ、人の指が――」
「僕があなたのために特別に用意したのですよ」
「こんなもの食べさせるなんてあなたはおかしい!」
「あなたの仲間たちに失礼なこと言いますね」
「仲間? 何を言っているんだ」
「今宵の晩餐会に招待したのは君だけだと僕は言ったかな?」
「……っ、まさか」
「でもあくまで主賓は君。君と僕だけ。席に戻ってラッセルさん。コースはまだ終わらないよ」
主人の手がヴィンセントの肩に触れた。ぞわりと背筋が凍るような悪寒を覚えた。この屋敷はおかしい。薔薇屋敷の主人もおかしい。逃げ出さなければ。そう思い至ったヴィンセントは考えるよりも先に主人の身体を押しのけ食堂から走り去った。跳ねのけた瞬間、主人は驚いた表情を見せたが追ってくるようなことはなかった。
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