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だが今までとて、同業者たちがこの第二区で薬を広めようとしたことは何度もあった。その度に、広まる前に潰してきたのだ。けれども、今回は一人の人間が溺れてしまうほどに、薬を手に入れることができる環境にあるという話である。
外部の思惑だけでは、おそらく無理だろう。ならば、考えられることは一つ。
あくまでも、可能性の話にすぎないが……
――裏切り者がいる。
アルジェントの脳裏に、裏切り者の文字が浮かぶ。自分に浮かぶのだから、組織に対して忠誠心が強い連中も、同じようなことを考えているだろう。
アルジェントは軽く手を上げた。
「俺のとこでも、今日ヤクを売りさばこうとしたバカを見かけたぞ」
「なんだと?」
血色ばむ顔が複数。
「それで、そいつはどうした?」
ロッソが厳かな声音で尋ねて来る。アルジェントは肩をすくめてみせた。
「いつもどおり、適当にぶちのめして転がしておいた。どう見ても、田舎から出てきたペーペーにしか見えなかったしな。身ぐるみ剥いでブツは押収しているが、量も吹けば飛ぶようなもんだ」
「捕らえもせずに、放置したのか?」
非難めいた口調で言葉が飛んでくる。それに同調するような声音がいくつか上がった。
「まさか、今日の会議でンな話が出るとは思ってなかったからな」
「だが、もしかしたらそいつから、何かしらの話が聞けたかもしれないだろう」
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