一発目 アルジェント・セッテ

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 部下の内の一人、アルジェントよりも年かさの男は丁寧に頭を下げ、そして犠牲者の足首を無造作に掴むと、そのまま荷物のように引きずっていく。途中で、ゴミやら犬猫の糞尿に男の身体が接触していても、まったく気に留めてはいないようだった。  表に転ばしておけば、先ほどの馬鹿の仲間が見つけて回収していくだろう。  この辺りは貧乏人が多く住み、めったに警察の連中はやってこない。やってきたところで、あの手の怪我人は、放置してみないフリをして去っていくのが常だった。  警察にとって守るべきなのは、あくまでも“善良な人々”なのだ。 「しっかし、本当に馬鹿っすよねぇ。この辺りで、ヤクばらまこうなんざ」 「どうせ、どこかの田舎から出てきたばかりノウタリンんだろうよ」 「ちげぇねえ。二度目のオイタをする気には、ならねえだろうよ。あれだけやられりゃ」  容姿年齢バラバラの部下たちが好き勝手にしゃべるのを聞きながら、胸ポケットに入れている煙草ケースから一本取り出し、火をつける。  ケース自体は上等のものだが、中身は吸い慣れた安物だ。他の連中から見られれば、眉根をひそめられそうな品物を、アルジェントは好んだ。  アルジェントは制裁もそうだが、煙草の火をつけるのも自分でやりたがった。  そのことを知っているので、彼の部下たちも自分たちの直属の上司であるアルジェントが煙草を咥えていても、火を用意しようとはしない。 「しっかし、相変わらずボスのステゴロは強いっすねぇ」     
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