一発目 アルジェント・セッテ

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 抱き合い、互いの頬に軽いキスを送り合う。化粧の匂いと香水の混じった、艶やかな女の匂いが鼻孔をくすぐる。  アマンダは五十路に手が届く娼婦で、年齢でいえばアルジェントの母親が生きていれば同じくらいの年齢になるはずだ。豊満な肉体の持ち主で、貫録も十分。若い頃はさぞ美しかったであろう面影の残る容貌に、今では分厚い化粧が施されているが、これはこれで妙な迫力があって、アルジェントは悪くないと思っている。  娼婦としては第一線を退いているものの、指名があれば要望に応える。というのが、今のアマンダのスタイルである。  彼女は≪白雪姫≫だけではなく、この花街の顔役の一人でもあった。 「ベイビー。いつもの部屋?」 「ああ」  アルジェントはアマンダの肩に腕を回し、階段を上がっていつもの部屋に向かう。  彼が利用するのは、この≪白雪姫≫でも壁の造りが厚く施工されている一等客用の部屋で、中での会話が外部に漏れないようになっている。  自分たちのボスが部屋に入るのを確認して、部下たちも、肩の力を少し抜く。  エルネストを初めとする一緒に連れてきている部下たちも、この娼館では魂の洗濯を行うのが通例だった。他の娼婦たちと一戦を交えるもよし、酒飲みに徹するのもよし。     
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